2023年7月3日

№116 愛しき不器用 県P新聞7月号から

 丈夫だけが取り柄の夫が風邪をひいたらしく咳がひどい。
 「雨の日に釣りになんかに行くからよ」と私は言いました。ひどいでしょ。熱は?きついのでは?と思っているのに、口を突いて出る言葉がいつも厳しい私。
 皆さんはどうですか?子どもがコップを割ったり転んだりしたら、「何をしてるのよ!」と声を荒げたりしていませんか。とっさに「大丈夫?怪我はない?」と優しく言える人が羨ましいですね。憧れます。
心の中ではドキドキするくらい心配しているのにそれがうまく表現できない。何よりも大切に思っているのにとっさに口から出る言葉はいつも叱り口調。
 周りから「きつい人、厳しい人」と思われるのは仕方ないです。
 つらいです。夜、寝床の中で今日もまたと、ため息をついてしまいますね。明日は優しくと思いながらまた同じことの繰り返し。
 いつも明るく優しく、思いやりある言葉を使える人は素敵です。
 でもこの文章を読んでくださっているあなた、優しさがうまく表現できない人にもそっと心を向けてあげてください。厳しい人だからと距離を置かずに心の深い部分で見つめると、厳しい言葉や毒舌の中に本物の優しさが隠れていたりするような気がします。付き合ってみるとユーモアがあって正直な人だったりと、かえって長いお付き合いができるかもしれません。
 私は月に数回デパートの地下で料理教室をしています。和やかで楽しい教室だと思っています。いつかご参加くださいね。で・・・その中にたまにですが・・・悪魔かと思えるような人が参加してくるのです。ブスッとして私がどれほど頑張って冗談を言ってもニコリともしてくれません。試食の時も「おいしい」の表現も全くなし。教室の雰囲気を壊すこと甚だしい・・・。
 でも私にはわかります。同じタイプの人間だから。
 彼女は決して不機嫌ではないのです。極端に緊張しているのです。ここに自分がいていいのかしら。場違いではないかしら。人にどんなふうに見られているのだろうか、服装は外してないだろうか・・・等々。軽く考えればいいものをそれができない。ひたすら真面目に緊張しているのです。この山際ごときに緊張してくれているのです。ありがたいです。さりげなく話しかけます。帰り際に少し緊張がほぐれて、ほんのり笑ってくれたりするとその日1日私は幸せな気分で過ごせます。表現が不器用な人をのけ者にしたくはありません。
 あなたもそのタイプだとしたら、ちゃんと本質を見ている人もいることも忘れないでください。